異業種のお客さま同士の共同輸送を支援するため、JPRでは共同輸送マッチングサービス「TranOpt(トランオプト)」を提供している。今回ご紹介するのは、新聞輸送の帰りに鋼材製品を積載する「帰り便を埋める」マッチング。お話を伺ったのは、読売新聞社の子会社として、新聞本紙やチラシを運ぶ輸送網を活用し物流の効率化や環境負荷の低減に貢献する、株式会社読売ロジスティクス(以下、読売ロジスティクス)と、金属材料・製品の硬さ調整・靭性向上・耐摩耗性向上等、付加価値付与のために必要不可欠な熱処理加工受託を専業とする、共和熱処理株式会社(以下、共和熱処理)。読売新聞が東京都北区から茨城県の稲敷郡に新聞の夕刊を運んだ帰り荷として、共和熱処理が茨城県かすみがうら市のクライアント企業から引き取る加工前の鋼材を乗せ、埼玉県川口市の工場に運ぶ運用だ。
輸送イメージ
新聞と鋼材製品、なんとも意外な組み合わせだが、どのような経緯で共同輸送成立まで至ったのだろうか。
<お話を伺った方>
―新聞と鋼材製品の輸送の特徴
まずは両社の荷物を輸送するうえでどのような特徴があるのか尋ねてみた。読売ロジスティクスの津田さまによると、新聞輸送には次のような特徴があるという。①輸送ルートのきめ細かさと運行便数の多さ、②一分刻みで時間が管理されていて定時性がある、③朝刊の輸送は23時~3時、夕刊の輸送は11時~15時など、新聞の輸送を行う時間帯には他の荷物の輸送はできない。共同輸送にあたってはこの時間帯の制約をどう乗り越えるかに工夫が必要だと感じているとのことだ。
一方、共和熱処理の小林さまによると、鋼材製品は①重量がある、②熱処理したものは「スケール(サビ)」が付着する可能性がある、③クレーンを使って積み降ろしするケースもあり平ボディのトラックの方が便利、といった特徴があるようだ。共和熱処理の場合は、日々荷量が変動することも難しさの一つだという。
共和熱処理の宮本さまは、「金属の熱処理は工場で行う作業で、お客さまから商品を預かり熱処理をしてお返しするのが1つの流れになるため、物流は必要不可欠な要素になります。トラックの大きさ、その日に運ぶ量などの変動が大きく、時には1回で運びきれず積み残しが出てしまうということも起こっていました。受注から納品までのリードタイムのなかで、工場の能力を考慮するためには、物流が合わせていかなければならない場面があります。そこで、定常的に確保されている輸送能力にプラスアルファするような、フレキシブルな運送をお願いできる会社はないかと探していましたが、なかなか条件に合うところが見つかりませんでした。」と、TranOptご利用前のお悩みを語った。共に特徴的な輸送を行っている両社だが、どのように出会い、輸送成立まで至ったのだろうか。
―帰り便輸送に着目し試行錯誤を重ねたのち、TranOptに出会う
TranOptを先行してお使いいただいていたのは読売ロジスティクス。開発段階からご参加いただいている。津田さまは、「当社は2020年6月に設立しましたが、その時に色々なところにご挨拶に行った折、お取引先からJPRを紹介されました。そこでTranOptを開発している話を伺い、データがたくさんあったほうがいいということで実験的に輸送データを提供しました。サービスリリース後も当社のデータを掲載していたところ、この度共和熱処理さまから『いいね』を押していただきました。」と振り返る。
共和熱処理は上記の悩みから解決策を模索する中で、「帰り便の利用」に着目。JPRと接点を持ったのは、こちらも取引先からの紹介がきっかけで、他社の帰り便を探すソリューションとしてTranOptにたどり着いた。TranOptを見つけるまでは試行錯誤を重ねていたという。
共和熱処理 宮本さま「他社の帰り便に可能性を感じていたものの、具体的にどこを見ればいいのか、という入り口の部分が一番のハードルでした。いくつか方法を試していて、工場の前を通るトラックや通勤途中に見かける停車中のトラックのナンバープレートを見て、輸送先の地域のナンバーのトラックを見つけては会社名を控えて調べたり、そんなこともしていました。ですが、そのトラックは帰り便輸送が可能なのか(復路を空で走っているのか)は調べてもわからず、困っていた時にTranOptのお話を頂いたんです」。
―はじめは操作が難しかったが、次第に良さを感じるように
両社とも、システムに慣れるまでは操作が少し難しい印象を受けたとのことだったが、次第に意義を感じるようになったという。
共和熱処理 宮本さま「はじめは少し怖さもありました。急にたくさんラブコールが来ちゃったらどうしよう、と(笑)でも本来の目的は企業と出会うためのシステムだと理解すれば、そこは思い切ってやってみたらいいじゃないと、私たち経営陣も積極的に『いいね』を押すように促しました。なかなか自分たちだけでは見つけることのできない物流ネットワークを教えていただける、いい仕組みだと思っています」。
読売ロジスティクス 津田さま「非常にありがたいと感じていまして、そもそも当社が設立された大きな理由の一つは、読売新聞の輸送網を外部にも提供しもっと有効に使うことでした。本業以外の積荷を探すことが最優先事項なわけですが、どう探せばいいのか?と考えた時にTranOptは大きな手段の一つになるだろうと思いました。自分たちで同様のシステムを作るにも相当な労力とコストがかかりますしね。マッチングサービスの良さは、ルートを登録しておけば自動で相手がみつかるのでそこに労力やお金があまりかからないこと。もちろんこれだけに頼るわけにはいかないので他の様々な手を打っていくのですが、手段の一つとして手間をかけずやっていけるのは非常にありがたいと感じています」。
―マッチング後のやり取りは?
スピード感としては、顔合わせから運行までは2,3か月程。大きな問題は起こらず、大変順調に進んだという。やり取りの中で特徴的だったことは、初回顔合わせの段階で両社がざっくばらんに条件を提示し、その場で細かい調整を行っていた点にある。
読売ロジスティクスの津田さまは「率直にお話できたことがよかったんだと思います。物流業界の交渉でありがちなのが、何ヶ月も細部を話して最後の最後に費用を調整し、そこで折り合わなくなり話がなくなってしまうこと。そのあたりの条件が早めにイメージと合致したので、これなら大丈夫だとその後もスムーズに進めることができました。」と話す。「率直に」「ざっくばらんに」がうまく共同輸送を進めるコツのようだ。
共和熱処理にTranOptを利用した反響を伺った。宮本さまは「今まではすでに持っている手段の中でなんとか切り盛りしていくことを前提としていましたが、今回自分たちで方法を探すことによって全く違う業界とのご縁を頂いて、可能性って色んな所にあるよね、という前向きな取り組みとしての評価を社内から得ました。2024年問題なども考えるとこういった取り組みは先行してやったほうがメリットが大きいですし、クライアントさまからもそういうことに前向きに取り組む会社だと思っていただける評価に繋がったのではないかと感じています。」と、語った。TranOptを通して、新しい気づきを得たとの感想だった。
―可能性を限定しないことが大事
最後に、皆さまに今後の展望について伺った。共和熱処理は、読売ロジスティクスとの共同輸送のチャレンジに加え、新たに家電業界との共同輸送も検討中だという。
共和熱処理 小林さま「熱処理業界は燃料費高騰などもあり、難しい局面にいます。これからもっと難しい状況がくるかもしれませんが、需要がなくなることはありません。私達は物流も担わなければいけませんが、今のままでは新規のお客さまが増えたときに補いきれません。物量や輸送コースが増えた際に、こういったサービスを利用することで物流の課題をクリアできればと考えており、そこに期待をしています」。
共和熱処理 宮本さま「物流は弊社にとって非常に重要な要素ですが、これから働き方などの面も含めて難しくなる。今までのように単純に1本のラインで行って帰ってという世界じゃなくて、そこをいかに緻密に組み立てていくかということを本気で考えないと、解決していかないでしょう。一見すると非効率とか難しいと感じる話でも、うまく組み合わせられる可能性があること、最初からあきらめず柔軟な発想で常に考えていくべきということを、今回学ばせていただきました」。
読売ロジスティクス 津田さま「あんまり想定していなかった荷物も案外運べるんだな、と。鋼材製品は大きいトラックで一気に運ばないと効率が悪いものと思っていましたが、今回みたいに半端が出るといった話があったりするんですね。そういうケースなら当社でもお役に立てると、新しい可能性に気づいた点がありました。先ほど申し上げたように積荷を探す手段の大きな柱の一つとして、引き続きTranOptに期待しています」。
両社とも共同輸送の可能性を限定せず、今後も拡大していきたいと語った。私たちJPRもさらなる支援を続けていきたい。